つらつらつらり

オタクの戯言

元旦に能登で被災して今は加賀の介護現場で働いてる。大変。

実家が能登地方で、職場が加賀地方なので、今そうなっている。

 

で、その職場が老人施設なので、被災者受け入れによって業務が過剰になってて、まあまあ大変。

比較的安全な地域にある病院と施設は、みんな大変。

 

まず今住んでる地域の話をする。

地震にはあまり怯えていない。余震はあるけどあっても3程度で、もはや警報も鳴らず、揺れたな?と思って安全確保したあとにXを開いて震度を確認してやっぱりなと頷くくらい。

震源地が能登で5ある時は家族のLINEグループに安否確認の連絡を入れる。無事と分かって一安心。ここ最近はずっとこれ。

 

実家の話をぼかしながらする。

断水が続いている。直るのに二ヶ月はかかるらしい。元々剣が管理してる配管が上流からダメになり、下流である地元の工事がもうどうにもならない……らしい。よく分かってなくてすみません。給水は3時間並んでも貰えなかった被災直後から、今は20分程度並べば貰えるらしい。

いわゆる『奥能登』ではないため、一般車両の通行制限はかかっていない。家族は下道を使い、今私が住んでいるアパートまで車を数時間走らせて、洗濯や入浴をして水道水を汲んで帰って行く。

被災地にも仕事があり、地震週休2日を考慮してくれないので、家族が来るのはだいたい週末。それ以外はガチャガチャにかき混ぜられた我が家で、片付ける暇もなく、余震に揺られながら断水の中暮らしている。

 

 

なぜ先に実家の話をしたかというと、私自身が元旦当日に震度6強を経験し、これ死ぬやつ!!!!と思ったし、その後は比較的安全な加賀の地域に戻ってきている…という前提をお伝えするためだ。能登の被害を知らない若造が何か言ってら!ではない。経験した上での、以下の話題だ。いわゆる愚痴だ。

 

 

では、ここから本題。

要介護の被災者を受け入れるのが、まあまあまあ結構大変、という話。

 

 

 

老人施設と一言で言っても要支援1.2、要介護1〜5と必要な介護の度合いによって様々な区分がある。ここは身バレ怖いからぼかします。

 

被災地の断水が続いている。停電は復旧しても、水がどうにもならない。支援物資のおかげで食べ物や飲み水は手に入っても、お風呂やトイレが満足に出来ない。

被災者の避難が続いている。病院も施設も、働いている人そのものが被災しているのだ。身動きが取れなかったり足がなかったり加賀の避難所に送られたりしている。医者も看護師も介護士もまったく足りない、らしい。

 

入院患者や老人施設入所者は、自ら避難できる人の方が少ない。当然だ。特に施設入所している要介護者は「その施設に居なければ生活出来ない」人々の集まりだ。自宅の構造、介護者の不足・普段、高齢化や核家族化問題……。みんなも十分に映像や写真で見たと思うけど、能登はド田舎なので(出身地だからこそあえてこの言葉選びをする)、子供は皆金沢や県外に出たけど親が能登を出たがらないからそこの施設に入れる…みたいなことも普通にある。

 

そんな状況なので、加賀地方の施設に「県から入居者数のうち何割の人数の被災者を受け入れて欲しい」という要請が来ている。

ベッド数の、ではない。県としては「個室じゃなくてもいい、仕切りやマットレスを使って空間を作るだけでも良い、とにかく受け入れてくれ」ということなのだろう。

よく「家に帰れるように」とか「帰る家があれば」とか言うが、この人たちは違う。ないんだ、帰る家が。元々施設に住んでいて、その施設が断水や人手不足で機能しなくなったのだから。

 

状況を考えると、仕方ない。

文句なんて言えやしない。

受け入れてあげなければ可哀想。

なんのための医療介護福祉という仕事か。

 

くたびれた顔の事務からの通達に、死んだ顔のスタッフは全員「仕方ない、大丈夫です」と頷いている。

 

でも、これが、なかなかキツい。

 

これはもう社会問題なので言うまでもないと思っているが、介護士の数が足りない。まったく足りてない。うちの施設もそうだし多分他の施設もそう。圧倒的マンパワー不足。みんな死んだ顔して疲れて働いている。給料は低いが辞めても行き先がない。辞めたら自分の穴を他の人が補うことになる。福祉という事業は儲からないので給料が上がることも人員をポンポン増やすこともできない。

と、見受けられることがあるけれど全て個人の感想です(保険)。

そんなわけなので、今の入所者さんたちで手一杯だったりする。そこに「はいじゃあ明日この人、明後日この人、今後何人の入所を予定してるよよろしくね」と通達が来る。当然、受け入れる。だってそうしなくちゃいけないから。被災者は大変だから。被災地を応援すべきだから。その分の給料が上がることはないだろうけど、スタッフ側の増援はないだろうけど、やるしかない。

親の施設入居を体験した人は分かると思うけど、施設入所ってやることいっぱいある。事務処理、役所仕事、確認事項、説明、料金について、もしも病気になったら、エトセトラ…。ケアマネージャーやソーシャルワーカーが時間をかけてかわるがわる説明して、契約を交わす。しかも今はそれが「輪島市の職員に確認したところ、かろうじてこれだけは分かったんですが…」レベルだ。それでも受け入れなきゃいけない。

 

想像して欲しい。

今までもキツキツの仕事量だったところに、追加で客が入ってくる。客はそこにいるしかなくて、静かに立っている。対応してあげなくちゃならない。

誰も悪くない。自分が普段以上に仕事をして店を回せばなんとかなる。頑張るしかない。

 

でも時々全てを忘れて「よぉし、電車で能登に帰るかぁ!」と杖振り回したり、制止を振り払って歩き出して転びそうになったりするんだよな、そのお客さん。

 

前のかかりつけ医からなんの薬貰ってたのかも知らないし。だからといって被災地の病院に迷惑かけれないし。

家族に聞こうにも、その家族も避難所で生活しているし。ケアマネも連絡取れないし。

帰る先がないからこれからずっとうちの施設にいることになるんだろうけど、それもまた心苦しくなるし。

普段の業務プラスアルファでしかないのに、見返りはゼロ。

でもそれを辛いと言える空気ではない。だって、震災後なんだから。

 

 

被災地では今もなお救助が続いていて、たくさんの人が寝る間も惜しんで働いている。世の中では復興のための募金、支援物資、経済を回そうと呼びかけ、それに応えてくれる人たちがいて。

頑張って欲しい、能登。はやく断水が直りますように、綺麗になりますように、地元。どうか安全に暮らせますように、実家。

 

でも、その影で、「なんとかしてあげなくちゃいけない」という義務感と優しさで、被災地からの入院患者を受け入れている病院や、要介護者を受け入れている老人施設があることも、これを読んだ人だけは覚えておいて欲しい。

 

 

 

頑張るしか無いのだけれど。